ないものねだりの天才



「もう会えない」

 言葉にしたら、あまりの軽さに吐き気がした。普通、どんなものだって上に乗っければ重くなるモンじゃねぇの。
 いつも通り突然押しかけたオレが発した戯言は、にはひとつも刺さらず「そうなんだ」と軽やかに言う。胃の中が重く波打つ。他のことだったら金でも権力でも暴力でも使ってどうとでもできるのに、のことになると何もうまくいかない。
 昔はよかった。擦り寄ってくるヤツは男も女も掃いて捨てるほどいたけれど、ひとつにこだわる理由がなかったし、手の中にあるモンになんてすぐに飽きた。
 幼馴染から彼女になったコイツも同じだった。結局自分の唯一なんて血を分けた兄弟のみだったわけだ。それが、どうして。

「飽きたわ、もう会うのやめね? 別れよーぜ」

 最初は鬱陶しくて、突き放すために発した言葉。今となっては気を引くために躍起になってる。
 繰り返した言葉が、嘘か本当かなんてどうでもよくて、でもどうでもいいと思う分だけ耳に留まるような重さすらなくしてく。
 幼馴染でも友達でも、他人でもなく、オレのことが好きだった女が「別れたくない」と。ひとかけらだけ流れた涙とその言葉だけが、よすがみたいにずっと頭から離れない。なァ、もっかいオレのことが好きでたまらないって目でこっち見て。
 もうなにも元に戻らないのに、そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ。