初期刀の加州清光とポッキー?



 今日はなんと!ポッキーの日です!
 一年に一度、“1”の数字が並び立つこの日のため、私は赤い箱のそれをしっかり用意していた。サクサクの生地の上に硬めにコーティングされているチョコの美味しさったらない。
 今日はこのおいしさを誰かに分け合いたいと思い、私は自分の初期刀のところまで赴いた。ついでに、どうせなら焦る清光でも見ようと思って私はワクワクしていた。口に一本のポッキーを咥えて清光へ差し出す。さあ、慌てるんだ加州清光!

「ん」
「ん?」
「ん」
「え、なに?」
「え、清光もしかして、ポッキーゲーム知らない?」
「ポッキーゲームって……安定がやってた、どれだけポッキーを一気に食べれるかってやつ?」
「え」

 思ったことは二つ、安定何やってんだ、と清光はポッキーゲームを知らないのか!ということ。清光が知らないのでは、この本丸のみんなが知らないのでは? 「ほ、本当に知らない?」「うーん」という応酬でそれは確実なものになってゆく。
 それを知ったことによって、私だけがポッキーゲームに踊らされていた……そんな気持ちが浮かび上がり、なんだか自分一人で浮かれていたようで恥ずかしくなった。「な、なんでもない」と言って、すぐさまUターンすると、清光が我慢できないように息を吐き出した。笑いと一緒に。

「はーあ、ごめん、嘘、知ってる知ってる」

 堪え切れないように吐き出される言葉と吐息に、私がどんな悲惨な表情をしていたかを知る。謀られた! 初期刀に!
 清光が笑うたびにどんどん恥ずかしさが増してゆく。最初浮かれていて、落ち込んだところまでひとまとめに笑われていることがより自分の羞恥に拍車を掛けた。それが限界値を迎えた時、私は「いや、逆に私は清光なんか知らない!」と叫んで早足で逃げた。


 「うそうそ、待って。冗談だって、主」と後ろから清光が追いかけてくる。楽しそうに言葉の隙間に笑いを挟んでくるあたりやはりバカにされている……。私のなけなしのプライドや羞恥心を煽る煽る。
 私が足を止めずにいれば、カサカサ物音も立てつつ、清光は待ってってばと繰り返す。何度目かの呼びかけにも答えなかった私に焦れたのか、彼は私の肩を掴むとぐるん、と自分の方へ向かせた。

「ひえっ」
「はいはい、主。口開けて」
「くち、」

 言いかけて開いた私の口に茶色の丸いかたまりが押し付けられる。おずおずと咥えてみれば、自分の唇の熱でじんわり溶け出すそれは、ポッキーと同じく甘い味がする。
 けれど、ポッキーとは真逆の、硬さのないこれは。

「ヒョコだ」
「そーそー、生チョコ」

 ポッキーもいいけどさ、これも美味しいよね。清光がわたしの目線まで屈んで、唇の端っこを緩やかに持ち上げる。今日も美人だ。
 そんなことを思っていれば、唇に挟まったチョコはじんわり溶けて広がっていく。甘くて美味しいそうな香りに釣られて、それを口内に招待しようとすれば、

「あ、ちょっと待って、食べないで」
「ん?」

 清光からのストップがかかって、なんだなんだと瞬いた時、それは起こった。
 目の前に広がる赤、口内に押し込まれた柔らかい生チョコ。
 それから、ちゅ、と軽いリップ音を響かせ、綺麗な赤色が離れていく。ぼんやりその様子を眺めていれば、清光はぺろりと上唇に付いたチョコレートを舐めとった。その仕草の艶かしいこと、艶かしいこと。というか、その生チョコは私が食べていたものでは? 起きたことに脳の処理が追いついていない私を置いて、清光は満足そうに手に付いていたチョコも舐めとった。
 そして彼は、ポッキーより、と前置きしてからにっこり笑って呟いた。

「俺はこっちの方が、いいかな」