お隣さまひとり



「最悪だ、これだからエースは」

 そう言ったの鼻頭は煤けていた。あまりにも間抜けだったので、自分の白衣の裾が焦げてちぢれていることも、と同じく煤けた頬をそのままにしていることも忘れて大笑いだ。
 くちびるを尖らせて、エースと組むとこれだから。というに愉快さも一入だ。

「はー? オレがミスる訳ねぇじゃん」
「はー!? 実際ミスられてますが!?」

 錬金術で、オレとが組むと二回に一回は失敗して、クルーウェル先生は大いに呆れ居残りを命じる。一連の流れができている。
 けれど、失敗することで学ぶこともあるだろうと、先生はオレたちを分けて組ませるという方法は取らなかった。

「だって、私はちゃんと人魚の鱗は粉末状にして入れたし、砂漠の水は沸騰させたし、ニガヨモギは刻んで沸騰後五分経った時に投入した。クルーウェル先生にだって確認したんだから、犯人はエース! キミしかいないわけよ!」
「冤罪はんたーい。でも、オレが作業してんのもオマエ見てたじゃん。ミスってるように見えた?」
「……見えてない」

  宴が続いた日のジャミル先輩みたいに疲れ切った顔でが呟くから、吹き出しそうになった。だって、オレは言葉の通りミスってはいない。
 ミスったんじゃない、これは想定通りだ。オレは手先が器用で手品も得意だ。最初の一回はが本当にミスったけれど、それ以外はオレがちょーっと余計なことをしていた。
 クルーウェル先生に手元を覗き込まれている時は成功させるしかないけれど、たまには。いいだろ。

「まあ、居残り頑張ったらクルーウェル先生がご褒美くれるからいいじゃん」
「そうだけどさあ……今日はマフィンがいいな」
「現金なヤツ。でもまあ、ねだってみれば?」
「いや、居残ってるくせにねだったらそれこそ怒り心頭で躾けられちゃうでしょ」

 なんだってソツなくこなせばいい、面倒ごとは嫌いだし。要領よくやるのがいいに決まっている。
 それでも、こうやって居残って、帰り道に二人で見た夕闇の色がまぶたの裏に再生されると、もう一回コイツと見たいなと思う。デュースとグリムには秘密で食べたマフィンの甘さとか、うまいと笑い合った時の空気の揺れ方とか。

「今日も、アイツらには内緒でご褒美食いながら帰ろうぜ」

 みんなでいる時だって楽しい。でも、ふたりでいる時も。コイツの時間を独り占めしていることに、多幸感を覚えていることに、まだ見て見ぬ振りをしていたい。まだ、なんでそう思うのか、なんていう答えに辿り着きたくなかった。
 けど、願わくばこのまま、ずっと居残っていたいなーなんて。オレらしくもないことを考える。
 そうして、不服さから注意力散漫の膨れっ面になり、今度こそ本当に失敗で鍋を爆発させたに笑みを付した。

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診断メーカーより。
お題は『願わくばこのまま、』です。