一等賞のブローチが欲しい
例えば、ぐっと冷え込む朝方に。少し足場の悪い道を歩く時に。そっと寄り添ったり、当たり前のように手のひらに触れてもいいものだろうか。
ううん。本当はなにもなくてもどんな時でも、意味も理由もなく触れられたら嬉しいなと思う。そう思っているのは、私だけなのかもしれないけれど。
◯
キィニチって、もしかすると潔癖なのかもしれない。
いわゆる、部屋に埃が一つでも落ちていたら許せないとか、少しでも汚れたら消毒をするとかそういった類いの話ではない。潔癖、というには大袈裟かもしれないけれど、人との触れ合いをひっそりと避けているような気がして。
夕方、懸木の民の集落にあるキィニチの家で。受けた依頼の内容を書面で再確認してスケジュールを組み立てているキィニチの横顔を眺めた。ナタの強い陽射しに晒されてすこし焼けた肌、深い森の葉で染めたような色の髪、瞬きの度に長いまつ毛が揺れている。
綺麗な顔立ちだなあと思って眺めていると、キィニチはこちらに視線はよこさず、けれど少しだけ目を細めて笑った。私の眼差しが、ずっと刺さっていたのかもしれない。
「どうした?」
「どうもしてないよ。キィニチって綺麗な顔してるなあって思って眺めてる」
「……そうか?」
「一般的にどうかはわからないが、がそう思うならこの顔でよかった」とさらりと言う。そういうところだぞ、といつも思う。
一般的に考えたってキィニチは魅力的に見えていて、本人はこれっぽっちも意識していないけれど、好意はそこかしこに潜んでいるのだ。悪意には敏感なくせに、好意には疎い。それは今まで過ごしてきた環境やキィニチの立ち位置に由来するのかもしれない。
こちらからの好き、をちゃんと受け取ってほしい気持ちと、無数に散らばった下心のあれそれに気付かずにいて欲しいという気持ち。対極にあるはずのものなのに両立するので困ったものだ。
見ず知らずの人たちに大手を振って「私たちは恋人同士です!」なんて宣言をすることはないのだから、しょうがないことではあるのだけれど、キィニチの耳には届かずとも私が知ることもある。空とパイモンと一緒にいると、あちらこちらから情報が集まってくるから。
例えば、竜の密売人に追われていたところを助けてもらった時に、守ってくれた背中が頼もしくてかっこよかったとか。怪我を手当してくれた時の手が優しかったとか。クライミング中に落ちかけたところに颯爽と現れて抱き止めて助けてくれたのが素敵だったとか。
そんな〝キィニチかっこよかった選手権〟のような話がナタを旅しているとちらほら聞こえてくる時がある。気持ちはよくわかる、危機から救ってくれる素敵な王子さまみたいに見えたことだろう。
きっとその人助けでキィニチは対価を要求しなかっただろうし、そこから生まれる好意のことも知らないままだと思う。
過日のどこかで、彼がみんなから距離を取られていたこともあるのかもしれない。けれど、キィニチが優しいのだということが、じんわりと広がってきている。乾涸びていた土に水が染み込んでいくみたいに、そこからはきっと緑が芽吹く。
それはとても嬉しいことであると同時に、私にとっては心中穏やかでない部分もある。そんなふうに思う自分が、いやなやつだなあとも思う。人を好きになるってむずかしい。
「?」
ぐるぐると考え込んでいる私の思考に切れ込みを入れたのはキィニチの声で、はっとする。何度か声を掛けてくれたのか、今度は視線がこちらを向いていた。
「あ、なに?」
「ぼうっとしているみたいだが、大丈夫か? 悪いな、もう少しだけ待っていてくれ」
「うん、ぜんぜん大丈夫だよ。私が押しかけてるんだし。……あ、じゃあ飲み物を作っててもいい?」
「ああ、あるものはの好きに使ってくれていい」
そう言ってまた集中し始めたキィニチの邪魔にならないよう、ゆっくりとした動作でキッチンに向かう。カゴの中にケネパベリーがいくつか。丸くてつやつやで瑞々しい、きっとジュースにしたら美味しいと思う。
ナイフで皮を剥いて果汁を絞る。水を少し加えて、ベリージャムも入れるとより美味しくなるというのは、キィニチが教えてくれたことだった。
以前口にした「キィニチが採ってきてくれたケネパベリーは、どこのお店で売っているものよりも美味しいからまた食べたい」という考えなしの発言を覚えていたのか、キィニチの家にベリーが常駐するようになった。それが、キィニチなりの「いつでも来てくれていい」の表れなのだとしたら、踊り出しそうなくらい嬉しいなと思う。
キィニチは基本的に、私に対してあまり「ダメだ」と言うことがない。今日だって「運が良ければ少しでも顔を見られるかな」なんて懸木の民へふらっと足を運んだ私に対して、忙しかったであろうキィニチはそうとは言わず、さらには引き留めた。
「今日は時間がないからまた後日」で終わらせずに「今日は依頼の内容を確認すれば終わるから、すこしだけ待っていてくれるか」と瞳を和らげて言うのだから、やっぱり帰るよとは言い出せない。そういうところだぞ、ってまた思って。
——そういうところが、好きだなと思う。そして、そういった細やかな振る舞いで〝キィニチは私のことが好きなはずだ〟という仮定を少しずつ補完している。耳に入ってくる不安要素を吹き飛ばすための力にできる。
話が最初に戻るけれど、キィニチは〝触れる〟という一点において積極的ではないような気がしていた。関係性の名前を変えてからも、私たちの間の空気は一定のものを保っているように思う。
そこになにか理由があるのか、踏み込んでいいのかわからない場所に、触れてみたい。もし許されるのであれば、私は確かめてみたい。そうして、好きな〝はず〟なんていう曖昧な言葉を取っ払いたいとも思う。
「待たせて悪いな」
キィニチのところに戻るとちょうど仕事は終わったようで、ケネパベリージュースを受け取って一口飲むと「うまいな」と言う。キィニチが教えてくれたことを反芻しているに過ぎないけれど、その表情は嬉しそうで、普段より幼く見えてかわいいなと思った。
「準備はもういいの?」
「ああ、下調べも含めて明日から始めれば問題はない」
「そっか。じゃあ、あの……キィニチ、すこし話したいことがあるんだけど」
「……なんだ?」
「えっと、その」
さらっと「手を繋いでもいい?」と言えばよかったのに、出だしから重たく切り込んでしまったのが失敗だった。心の中で何度も繰り返し考えた言葉をいざ外に出そうとすると堰き止められてしまうのはなぜなのか。あんなに出口を欲しがっていたくせに。
私がこれから言おうとすることに対して、きっとキィニチはノーとは言わないだろう。そんなことはわかっているのに。
「そんなに言いづらいことなのか?」
「いや、そんなことはないんだけどね」
言葉の通りである。あるのだけれど、キィニチの下心なんてまるでないような綺麗な瞳にじっと見つめられると、どうにもやりにくい。真剣な表情を見せるから、余計に切り出しにくくなってしまう。
けれど、ここまで引き伸ばすようなことでもなし、さっさと言ってしまう方がどう転んでも遥かに傷が浅く済むだろう。
意を決して口をひらく。頼りない音にならないように、慎重に。
「あのね、……もう少しそばにいってもいい? 手を繋ぐとか、そういうのをもう少ししたいなって」
思って、と尻すぼみになる言葉に、キィニチがぽかんと目を丸めているのがわかる。私がそんなことを言い出すとはまるで思っていなかったという様子に、頬がほてっていく。別におかしなことを言ったつもりも、時期尚早というわけでもないのに。
心の中で一人相撲を繰り広げる私をよそに、キィニチはお腹の中の空気を追い出すように息を吐いた。
「なんだ、そんなことか」
「そんなこと、じゃないんですけど! けっこう重要なことなんだけど!」
「いや、悪い。そう意味じゃないんだ。……がいいなら、もちろん、いつでもそうしてくれて構わない」
一気にやわらかくなったキィニチの表情に、こちらもうすく息を吐き出した。
その言葉を確かめてみたくて、手のひらをそろっとキィニチの方にやるとしっかりと捕まえられてしまい、すこしだけ冷えた指先は私の心まで撫でるように触れてくる。ぎゅっと心臓が縮むみたいに動いて、たまらない気持ちになった。
それだけで、固結びにされた心がほどけていくようで、単純なやつだなって、アハウが見たら笑われるかもしれない。
「いつでも、いいんだ」
「当たり前だろう」
「……でも、キィニチが触りたい、と思った時にも同じようにしてほしいんだけど」
そうでないと、私ばかりがアクションを起こすことになってしまう。そんなのはすこし寂しく不公平だ。どうせなら、私だって無欲そうな生き物が欲を持って行動する様を見てみたい。
不服の言葉に、キィニチはぱちぱちと数回ゆっくりと瞬きをする。それから、考え込むように口元を手で覆って、生真面目な顔でつぶやいた。
「……だとすると、困ったな」
本当に困ったような声色で言うから、心臓がざわざわと揺れる。「そんな時なんてない」なんて言われてしまったら、私は当分立ち直れない。
そんな風にどきまぎとして体が強張ったままの私を知ってか知らずか、キィニチは言いにくそうに続きを口にした。
「そうなると、俺はずっとお前に触れている必要がある」
「……え、」
くちびるから落っこちた声を拾うみたいに、キィニチがぎゅっと指先を絡め取ろうと動く。真っ直ぐ見つめてくる瞳には、さっきまでとは全く異なる熱が陽炎みたいに浮かんでいるように見えた。
今度は、私の方に瞬きをする番が回ってきた。キィニチのそんな表情を見たことがなかったために耐性がなく、言葉にならない音をポロポロと落とすだけの生き物になってしまった。
「……そうなると、歯止めが効かなくなるかもしれない」
私が作り出してしまった空白を埋めるみたいにキィニチが言う。
いつも、まっさらな気持ちで向き合われていると思っていたけれど、赤く染まっていく首筋や頬、逸らされた視線を見るに見当違いだったのかもしれない。
「キィニチは、こうやって触られるのはいやじゃないってことで、いいの?」
「好意を寄せている相手に触れられたくないやつはいないだろう」
「好意を寄せている相手って……それって私のこと?」
「逆に、以外に誰がいるんだ」
声は少しだけ怒りを伴い、むっつりとくちびるが結ばれた。しまった、この質問じゃ面倒なやつになってしまう。
軌道修正しようと口を開こうにも、繋がったままだった手が強く引かれたので間の抜けた「っわ!」という悲鳴に変わってキィニチの胸元に吸い込まれていく。
ぎゅっと腕の中に閉じ込められると、キィニチの服が肌に擦れてさらには体温まで伝わってくる。
きっとそれはキィニチにとっても同じで。どこどこと全力疾走したあとみたいな鼓動の音がダイレクトに伝わってきて、いつも冷静なキィニチでもこんな風になるのかとまたびっくりしてしまった。
——キィニチって、もしかすると考えている以上に私のことが好きなのかもしれない。
「お前がなにか思い悩んでいそうだとは思っていたんだが、どうやら相当くだらないことのようだな」
「く、くだらなくないよ、私にとっては死活問題なんだから」
「が悩んでいること自体をくだらないなんて思ってはいないが、ありえないことで悩むのはやめてほしい。こっちの心臓に悪い」
「……どういうこと?」
なにかそんな風に思われるような素振りを見せただろうか、と今日を振り返る。もしかして、私がぼんやりとしていたのを指しているのだろうか?
キィニチを見ると、失言だったと言わんばかりに顔を背けるので、畳み掛けるなら今!と脳内の空が助言してくる。腕の中でもぞもぞと距離を測り、さっき彼がしたのと同じように真っ直ぐに見つめてみる。
「キィニチ」と呼び掛ければ、やや間を置いて諦めたような溜め息が聞こえてきたので勝利を確信した。
「おそらく、が実際に悩んでいたことよりも悪い方向に考えていた。俺と一緒にいることでなにか不都合が出て、お前がこの関係を解消したいと思っている、とか」
「な、」
ありえない、と口を挟もうと思ったのに、キィニチがそのまま言葉を続けたので閉口せざるをえない。更には見ないでほしいとでも言うように後頭部を引き寄せられて額を肩口に押し付けられるから、じっと耳を傾ける以外の選択肢がなくなってしまった。
「結果的には見当違いだったようだが、もしお前がそう言ってきたとしても、」
呼吸の音が鮮明に聞こえるくらいの距離だ。明確な意志を持った言葉として生み落とそうとするように、一呼吸置いてキィニチが言う。
「俺は頷けない」
耳殻に触れた息が、そこからびりびりと全身に伝っていくようだ。ぎゅっと力が込められた腕は、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。私のちっぽけな不安が伝播して、キィニチの心にまで揺さぶりをかけたと思うと申し訳なくなる。それから、やっぱりキィニチのことが好きだなとも。
「……キィニチこそ、ありえないことで悩むのはやめてよね。言わないよ、そんなこと」
「ああ、予想が外れてくれて助かった」
力が抜けたみたいに、ふっと笑いが溢れたのが聞こえた。ほんのりと擦り寄るように動くキィニチの頬から逃げないように側頭部をくっつける。
なんだか、今日のはじまりから考えると、思い付かないくらい甘やかな雰囲気が漂っている気がして、安心もあり素直に照れてきてしまう。
けれど、私が欲しかったのはこういうものだったんだよなあ、と感慨深く思っていると、キィニチがさっきよりも低い声でその空気にメスを入れてきた。
「それで、の話は? 俺は話したが、対価をまだもらってない」
「え、今その話になる?」
しっかりと頷かれてしまい、困ったことになった。なるべくキィニチには知られたくはないのだが、逃げ場がない。前述した通り、悪意には鋭く好意には疎い。顔も知らない女の子たちが抱えていたそれらを知らずにいて欲しいというわがまま。
「あ、え、えー……? これって言わなきゃダメ?」
「対価は必要だと、いつも言っているだろ」
けれど、それは通らないだろうなということも、キィニチを見ればわかった。代償を量るのに長けている彼は、きっとこのままなあなあにすることは許してくれない。腹を括るしかないわけだ。
座り直して、縮こまりながら話すことになると、なんだか叱られているみたいな気持ちになる。
「怒らず笑わず呆れずに聞いて欲しいんだけど」
「ああ」
「……実は」
今までに聞いてきた、キィニチに向けられた好意とそれに伴う不安、いわゆるヤキモチについて丸裸にされてしまい、羞恥心が火を吹くかと思う。キィニチは真面目な顔で私の話したことをなぞっていくので、逆に恥ずかしさを煽られている気分だ。
「なるほどな。理解はしたが、ひとつも心配する必要がないことだ。次からはもっとはやく、直接言ってくれ」
「ぜ、善処はするけど……冷静にそう言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……」
「そうか? 誰でも恋人相手にはそう思うことはあるんじゃないか」
「……それって、キィニチもってこと?」
まるで「自分もそういう経験があります」みたいな口調に聞こえて、顔を覗き込むとふいっと逸らされてしまう。怪しい。
往生際が悪いのはお互い様という感じで追いかけてみれば、消化できない火を飲み込んだみたいななんともいえない表情に出会して、力づくで抱き込まれてしまうので打つ手がなくなってしまう。なんて卑怯な。
「こんなのずるじゃん! あんなにクールな顔してたのにキィニチだって照れてるじゃん」
「照れてない」
「うそつき」
その証拠に、また心臓の音がどこどこと駆け抜けているのが、私には聞こえている。けれど、「なんとでも言え」とほんのり拗ねたような音で追い返されてしまうと、追求は諦めるしかない。
ならば、と思う。本日最後の一手を。今日はすこしだけ欲張ってみたいと思うのだ。狙いを定めて撃ち落とそうとする時、みんなこんな風になるのだろうか。引かれないかな、なんて思いながら、キィニチと同じくらい早く走る鼓動のままに口を開いた。
「ちなみに、さっきの話の続きなんだけど」
「さっき?」
「歯止めが効かないとどうなるの?」
キィニチがぎょっとし、すこしだけ体が揺れる。それを、逃がさないよう背中に回した手をぎゅっと強める。きっと、本気を出したら簡単に振り解けるそれを、キィニチはそうしなかった。
逡巡してからまたさっきのようにため息を吐くので、これはあと一歩なのではと邪な考えが加速していく。
「……わかりきってると思うんだが」
「そうかもしれないけど。だって、直接言えって言ったのはキィニチでしょ」
言葉にするなら「うっ」というしまった顔をしたキィニチは、しまいには手のひらで顔半分を覆ってしまう。じわじわと再度キィニチを侵食していく赤い色は、耳の端っこまで到達している。
「……俺が馬鹿みたいになって、困るのはお前だろう」
「今だって、もう歯止めが効かなくなりかけてる」と言うキィニチの声は、いつものはっきりとした声色ではなくて、どことなくふやけている気がした。その言葉の意味として、抱え込むように背中に回された方の腕が、こんな状況でも外されていないことが答えなのではないかと思う。
畳み掛けるなら、とまた頭の片隅で背中を押す声がする。さっきのあの恥ずかしさを挽回するならここだって。
——それに、見てみたいと思う。いつでも努めて冷静さを保つキィニチが、全く違う顔をみせるところを。他の誰にも見せないで、私にだけ。
「困らないから、なってみても、いいんじゃないでしょうか」
言葉を合図にして、キィニチのくちびるのぎりぎり横を狙って、一瞬触れるだけ、くちびるをくっつけてみる。体全部が心臓になったみたいだ。自分から仕掛けたことなのに、照れ臭さと緊張で頭の芯がぼんやりとしている。
「……は、」
キィニチから零れた声に、反応が気になりこっそりと窺い見る。ぎゅっと眉間を詰め、なにかを堪えるような表情で「ここまでだ」と言うので、流石にまずかっただろうかと体が強張った。けれど。
少しだけ体が離され真っ直ぐにこちらを見たキィニチ瞳には、先ほどまでの灯るようなものとはまったく種類の違う熱を湛えていた。その温度の高さに思わず体がびくりと跳ねた。
「俺は何度も忠告はした。前言撤回は、もう聞かないからな」
まるで狙いを定められた獲物だなと思った。私の方がそちら側だと思っていたのに、蓋を開けたらぜんぜん逆で。
キィニチ、と口を開いたところで、すぐにそれは消えてしまった。本人に食べられてしまったからだ。私の後頭部を攫うように抱えたキィニチが、すこし横に狙いをずらす、なんてまどろっこしいことはせずに口付けた。
もし〝キィニチかっこよかった選手権〟が開催されたとしたら、今度こそ全て私が掻っ攫ってやるって自信をもって言えるかもしれない。
邪な感情なんてひとつもありません、みたいなキィニチの澄んだ表情を一瞬でぱっと塗り替えられるのが、私だけであればいい。平等にやさしくできる人が、たまにやさしくなくなるところを見られるのが嬉しいと思う。
意味も理由もなく触れたいと言ったけれど、好きという理由はいつも胸の中にあることに気付く。
もう一度、ぐっと近付いたキィニチの瞳が朝焼けみたいで綺麗だなと思いながら、まぶたの中に閉じ込めた。