あまいのは表面だけ



 そうと決まれば私の行動は早かった。流石は私の初期刀頼りになるぅー!とテンションを上げ、提案者である清光を引き連れ本丸を練り歩いた。もちろん、堀川国広を探すためだ。
 広間、炊事場、鍛錬場と探して行ったけれど、彼はおらず、道すがらの縁側で大福をもくもくと食べていた安定によれば兼定と一緒に裏庭に向かう姿を見たらしい。やっぱりあの二人仲良すぎるな羨ましい! ニコイチなのか、そうなのか、私もそこに入れてもらってサンコイチになりたい仲良くなりたい!

「サンコイチになりたい!」
「わかったから、ちゃんと探しなって」
「僕らもサンコイチだよ、主」
「たしかに、私たち仲良しだもんね。じゃあ、私たち含めてゴコイチになろう」
「そうしよう、ちょうど大福もあるし、一緒に食べたいよね」
「そんなたくさん、どうしたの?」

 もぐ、と一口また大福を齧った安定を見遣って、それの出所を聞いてみる。彼は手に持った紙袋から私たちにその大福を渡そうとはせず、大事に抱え込んでいる。とんだ食欲だ。

「あー、これは……」
「もしかして、歌仙とかに今日のおやつで渡された?」
「あーうんそうそう、そんな感じ。食べなって言われたよ」
「それ、多分食べなの前に、みんなでって付くよ!私たちの分入ってるじゃん!」
「もう五つは食べたよ」
「安定、食べ過ぎ……太るよ……」

 そんな安定に私が頭を抱えていれば、同じく信じられないと嘆息した清光が「あ、」と声を上げる。その視線の先を辿れば、兼定と堀川国広の二人がちょうど鍛錬場の裏手からこちらをぎょっとした様子で覗いていた。どうやら騒ぎ過ぎたみたいだ、けれど、これはちょうどいい。
 二人に向かってブンブンと手を振れば、兼定が振り返してこちらに二人が歩いてくる。堀川国広は特に顔を青くしたりはせず、少し視線を外しているくらいだった。この前よりはいい反応かも?なんて思ってしまう時点で、彼と自分の関係の悪さを再認識した。辛い。

「ちょうどいいところに!」
「あ?なんだ、俺たちのこと探してたのか?」
「そうそう、堀川国広にお願いがあって探してたんだ」

 私がそう言えば、兼定はパッと顔を明るくして堀川国広へ目を向けた。堀川国広も驚いた様子で兼定と顔を見合わせる。彼の方へ視線を向ければ、恐々とするようにゆっくりと彼の視線が私まで繋がる。そんな恐々しないで……取って食べたりしないよ! 優しいよ! 心の中でだけその言葉を反芻しつつ、本来の提案を口にする。

「明日から、近侍をやってもらえないかなって」

 この本丸に来てみんな一度は近侍を経験している。清光の提案通り、近侍をやってもらったことで仲良くなれた刀剣はたくさんいる。だから今回もその効果にあやかりたいと思っている。清光の方を見やれば、クールな顔してまったく世話が焼けると言うように肩を竦めた。
 「どうかな?少しずつ慣れていってもらえたら」主に私にという言葉を語尾に隠しつつ声を掛ければ、ぴくりと肩を揺らして、堀川国広はスッと大きな瞳細め、口元に緩く弧を描かせた。その様子に、兼定が目を輝かせ、少し花びらが舞う。それだけでもう、仲良くなりました!なハッピーエンドが脳内に描かれていた。片手を差し出して、最大限の笑顔を向ける。この本丸で僕と握手!
 そんな緩いことを考えていたからだろうか、次の言葉を私は瞬時に受け止めきれなかったのだ。


「無理に決まってる」


 その口から吐き出された言葉に、空間がピシリと固まったのがわかった。
 そうだ!行け!行け!やるんだ主!と言うようなポーズを取っていた兼定も、手を差し出していた私も、後ろで大福をもぐついていた安定も、世話が焼けると息を吐いていた清光も。みんな、目を見開いて口をあんぐりと開いた。
 こんなパターンを私は想定していなかったよ! それは清光も、みんながみんな同じらしい、兼定がサッと顔を青褪めさせた。そして、そんな時間の流れが止まったかと思えるその場を動かしたのは他でもない堀川国広だった。動けないでいる私たちを置いて、彼は唐突に身を翻した。

「ばっ?!」

 その状況にいち早く反応したのは兼定で、流石脇差!といえる堀川国広の機動に負けないくらいの機動を見せて追いかけて行った。
 置いていかれた私はといえば、それからしばらく動けず、動けたかと思ったら膝から崩れ落ちた。こんなのって無いよ……上げて落としすぎ……。床に手をついてうな垂れた私に、清光も慌てて肩を摩ってきたし、安定も慰めるように私の肩に手を掛けてきた。と思ったら、私の口に食べていた大福を詰め込んだ。意味がわからない。
 甘いはずの大福は、なんだかちょっと塩辛い味がした。あ、私の涙か。つらい。




「という感じなの。どう思う?」
「どう思う……と言われれば、うちの堀川さんとは随分印象が違いますね。亜種、のようなものでしょうか?」
「やっぱり?私なんかしたのかなぁ、ものすごい拒否られっぷり!本丸内冷ややか対応ナンバーワンの宗三でもあんな直接的に言われなかったのに……」
さんのところの男士たちは感情を表に出す方が多いですよね」

 そう言うと彼は口元を隠してクスクス笑った。そういえば、彼のところの本丸の男士たちは穏やかな子が多い気がする。なにそれ、顕現した人による個性ってそんなに出るもの? そう考えると、私のせいでうちの堀川国広はあんなに塩対応なのかと思ってしまう。逆に彼に申し訳ない気持ちが胸を占めた。ガサツでごめん。
 横の清光は私たちの話を聞きながらも、カフェ店員の女の子にみんなの注文を伝えていた。よくできた子だよ本当。何もしなくて本当にごめん。
 政府からのお達しで開催される月例の審神者会議の後、私は同時期に審神者になった男の子と一緒にカフェでお茶と洒落込んでいた。というか無理やり引っ張ってきた。もちろん、話す内容はうちの本丸の堀川国広のこと。最近の私の頭の中は堀川国広のことでいっぱいだった。

「だがよぉ、国広がそこまで頑なっつーことは何か……清光、お前は何も聞いてねぇのか?」
「うーん」
「というか、もう確実に嫌われてるとしか思えない。でも自分が何をしたのかわからない」

 頭を抱えた私を見て、彼の和泉守兼定はわたわたと慌てた。彼の和泉守兼定は審神者会議でも良く会っていたので顔見知り。仲もいい方だから、軽口を叩いたつもりが泣かせてしまったとでも思ったらしい。彼は「国広が人見知りをしているだけかもしれないだろ」や「あいつはそんなことじゃあ、お前のことを嫌いになったりしてないと思うぜ」なんて声を掛けてから、私の頭を鳥の巣にすべく頭をグリグリとやられた。
 そういう雑だけど優しい気遣いがとても兼定らしいし、私のささくれ立った心には特効薬のように染み込むのだ。ありがとうかっこいいよ兼さん。本当に瞳が潤んできた。
 その後、頭を鳥の巣にした私を不憫に思ったのか、そんな奴の隣に座ったいたくないと思ったのか定かではないけれど、清光が手櫛で髪を整えてくれた。最後にぽんぽんと頭を撫でられ、その手に縋るように「きよみづ……」と声を出せば、それはだいぶ情けない声になった。
 すると、清光は少し考えるように視線を私から外し、ぐるりと店内を見回した。そして、一点、審神者の彼と彼の兼定を見てピタリとそれを止めた。そして、「堀川国広に会えばいい」と言った。

「え?」
「だーかーら、堀川国広に会えばいいんじゃない」
「あぁ、なるほど」

 理解の追いついていない、和泉守兼定と私を置いて二人は頷きあった。置いていかないでほしい、と私たちも顔を見合わせた。
 私たちの反応を見て、彼はクスクス笑ってから「加州さんが言うように、」と胸の前で手を打った。

「堀川さんに会いにきてはどうでしょう?僕らの本丸に」
「え、いいの?」
「もちろん。堀川さん本人に会って、話して、いろいろ聞いてみればいいんですよ」
「その方が悩まなくて済むんじゃない?最近悩みすぎ眉間に皺よりすぎ」

 かわいくないんだけど、と最後に付け足したけれど、清光の言葉に棘はなかった。和泉守兼定も同期の彼も優しく笑ってくれたので、その話に乗っからせてもらおうと思う。
 待ってろ、堀川国広! 絶対に仲良くなる! 私はみんなの優しさをありがたく思いながら、強く決意する。ずぶずぶと深く暗い道に、迷い込んでしまっていても諦めたらそこで終わるしね。例え、彼がどんな堀川国広でも、うちの本丸にやっと来てくれたのだ。そう、どんな堀川国広でも。

 うちの堀川国広はおっちょこちょいだし家事は苦手だし、闇討ちも暗殺もできるのか?という感じである。そしてなにより、兼定至上主義は置いておいたとしても冷たいのだ。その点が私の心を最も大きく抉っている。
 審神者の彼の言葉を借りれば亜種。私の本丸に顕現した堀川国広は、一般的な堀川像を一割ほどしか持っていない堀川国広であった。